今、世の中で何がブームなのかはテレビを見ればよくわかる。
狭い規模での静かなブームだったとしても、テレビで取り上げられることによって全国に知れ渡る。
ブームとテレビは切り離せない関係にあるといえる。
テレビの中で整形が扱われることが急激に増えたが、その方向性は様々である。
「整形ブームだ」と騒がれる前から、比較的多く「整形」を扱っていたのは、クイズ番組。
5〜6人の女性がずらっと並び、この中にひとりだけ「整形」をした人がいます、どの女性でしょうか、というものだ。
「整形」に対して賛成か反対かという議論もなければ、番組としての意見も特に感じ取れない。
ただ、クイズのネタとして単調に扱われている。そして、その変身ぶりに驚く。
最近はこのようなクイズを盛り込んだバラエティ番組がさらに増えた。
フジテレビ『笑っていいとも!』では、整形美人を当てようというクイズを定期的に放送している。
その他にも単発ではあるがバラエティ番組で扱われることが多い。
そして、1〜2時間番組の中のたった1問、10分くらいしか占めていなくても、新聞のテレビ欄に「整形」と載せている。
テレビ欄は視聴者の興味を惹くように作るのは言うまでもない。つまり「整形」は視聴率アップに大きく貢献する要素なのだ。
ブーム到来と騒がれ始めて、「整形」をドキュメントタッチで扱うバラエティ番組が増えた。
中でも2001年秋から始まったフジテレビの『ビューティー・コロシアム』は単発ではなく週一回のレギュラー番組で、
毎回「整形」を取り上げている。そして、大塚美容形成外科・歯科が監修を務めている。
以下は番組ホームページに記されている紹介文である。
「「きれいになりたい!」という願いは女性なら誰でも持っているもの。
「顔じゃないよ、心だよ」人はいつでも言うけれど、やっぱり外見は大切だ。
きれいになったら、コンプレックスを治したら、明日から違う人生が待っているかもしれない!!
この番組は、そんな悩める相談者のために、人生の達人たちと、
女性を美しくすることなら誰にも負けない日本最高の技術を持ったアーティストたちが、
その総力をあげて、悩める女性たちを応援し、愛と勇気を与える
……『B.C.(ビューティー・コロシアム)』はそんな番組なのです。」
(フジテレビ『ビューティー・コロシアム』)
番組名の通りコロシアムのような円形になったスタジオの中心に「悩める相談者」が座り、
「人生の達人」と「アーティスト」が取り囲む。
「悩める相談者」は番組に応募してきた一般視聴者、「人生の達人」は芸能人たち、
「アーティスト」とはメイクアップアーティスト、ヘアメイクアーティスト、エステティシャン、スタイリスト、
そして大塚美容形成外科から来た美容外科医。
番組は、BEFOREとAFTERに分かれて構成されており、容姿による悩みをスタジオで聞いたあと、
何ヶ月か過ぎてから変身した姿で再び出演してもらうという内容になっている。
この番組を見ていると、人間は外見ではない、「整形」なんてとんでもない、などという考えは微塵も浮かんでこない。
容姿のことでどれほど悩んだか、どれほどいじめられてきたか、再現VTRを見、涙ながらに語っている相談者を見ると、
金銭的な問題も倫理的な問題もどうでもよくなってくる。一刻も早く「整形」をして、明るく楽しい人生を送って欲しいと心から思う。
そして、数ヶ月後に現れた相談者は、「整形」をして、美しく着飾って、何より笑顔が印象深い。
これから前向きに生きていく、と決意を表す。きれいになって、明るくなって、「整形」も捨てたもんじゃない、
迷っている人もしてみたらいいのでは…、というように視聴者が思ったとしても当然である。
しかし、番組の最後には次のような但し書きのテロップが出る。
「この番組は出演者の証言をもとに構成しています
キレイになりたい人を応援するものであり決して整形を薦めるものではありません」
最初の文は、“やらせ”ではないということを保証している。
以前に、芸能人が悩める一般人の相談に乗るといった他番組で“やらせ”が発覚したためだろう。
そして、次の文。この番組を見て「整形」して失敗しても、お宅のお嬢さんが「整形」したいと言い始めても、
番組では責任を持てません、ということだろうか。番組を見ることによって、「整形」の印象が良くなるのは確かだ。
しかしこの文だけ見ると、「整形」がまるで堂々と薦めることのできないもののようだ。「決して」のひとことがさらに強調している。
番組を見ていると、美容外科医は他のアーティストたちと一線を画している。容姿についての悩みを聞き、
それぞれどういったコンセプトで変身させるかをフリップに書き提示する場面がある。スタイリストが「エレガントに」と書き、
メイクアップアーティストが「松嶋菜々子風に」と書いているのに、
大塚美容形成外科から来た美容外科医はどんな場合も「よく相談してから」という慎重な姿勢を崩さない。
そして相談者に対してどうしたいのか聞き、手術でできることとできないことをしっかりと話し、
あいまいな希望に対しては主観に左右されるものではなく具体的にしていこうと言い、
本人の意思とくいちがいのない手術をしようという真摯な対応を見せる。きれいになりたいという動機は同じでも、
「整形」は髪形を変えたり化粧を施したりすることとはかけはなれたものだ。
「整形」なしでこの番組を作ったとしたら、悩みの重さに比べて解決法があまりに軽くアンバランスな構成になってしまうだろう。
だからこそ『ビューティコロシアム』は大塚美容形成外科監修のもと、悩みと同じくらいの大きな価値を「整形」にも置いて作られている。
テレビドラマにも整形ブームが反映された。フジテレビが2002年4月から3ヶ月放送した『整形美人。』である。
主演の米倉涼子が演じるのは、798万2562円をかけて「整形」した女性、保奈美。米倉涼子のイメージと同じくサバサバした性格である。
「整形」に染み付いた独特の暗さのようなものは微塵もない。保奈美の家族はバラティ番組で活躍するタレントたちが演じ、
「整形」に反対するものの、どろどろとした雰囲気にはなっていない。番組ホームページの“Introduction”では以下のように紹介されている。
「これは、キレイになりたいというすべての女性の願望を描いた、この春、最高にファンキーでポップな、
だけど切ない究極のラブストーリーである。」
保奈美は恋愛をするが、「整形」したことを相手の男性になかなか明かすことができない。
やっとの思いで真実を告げると、男性は離れていってしまう。
また「整形」をして元の姿に戻ろうかと悩んだ末に保奈美が出した結論は、彼に出会ったときの姿、
つまり「整形」した姿のままでいることだった。そして相手の男性は華道の家元として、「整形」と造花を重ねて考え、
結論を出した。「愛する人が世界で一番美しいように、造花も愛すれば本物の花になる。本当に大切なものは目に見えない」。
目に見えない大切なものは、主人公の性格やきれいになりたいと思う気持ち、お互いの愛情などのことだろう。
そして、「整形」した保奈美は幸せになれたわけだが、結局は容姿よりも中身が大切だという結論になり、
このドラマは「整形」に対する是非を主張するものではなかった。