第2章 整形ブーム到来

(1)プチ整形

今までの整形の暗いイメージを変え、ブームの中心的存在となったのは、“プチ整形”である。 この言葉は集英社の『イミダス』に掲載されたことで、時代の象徴として認知された。
『イミダス』による定義は以下の通りである。

「メスを使わずに顔のシワを取ったり、鼻を高くしたりする、簡単な整形手術。 従来の整形手術に比べ、費用が安く体への負担も少ないことから、化粧やエステの延長として試す女性が急増。 整形にありがちな暗いイメージはほとんどない。 最新のレーザーで顔のシワを取ったり、ヒアルロン酸を注入して鼻やあごの形を整えたりする。 ヒアルロン酸はもともと人間の肌の中にある物質で、効果は数カ月程度でなくなるが、状態を保つために再度注入する人がほとんどという。」

『イミダス』では触れられていないが、“プチ整形”と聞いて真っ先に思い浮かぶのは二重まぶたにする整形ではないだろうか。 朝の化粧時間の大半を目に費やす女性は多い。なかには“アイプチ”で一重を二重に変える人もいる。 糊やテープになっており、まぶたに溝を作って貼り合わせる道具である。2002年4月20日の産経新聞首都圏版では、 「近頃都に流行るもの」というコーナーで「二重まぶた造形グッズ」と名づけられ取り上げられている。 その中で、最近さらに進化した“アイプチ”も紹介されている。

「一番人気の「メザイク」(千二百円)は、シリコン糸でまぶたを固定する新手法で昨年三月から発売。 「ロフト」で月千個、「東急ハンズ」でも月三百個ペースで売れる。」

糸でまぶたを固定するという発想は、整形手術から来ていると考えて間違いない。 手軽と言われるプチ整形を、さらに簡単にしたということだ。 今までの糊やテープという手法よりも美しく自然に仕上がるようである。
とはいえ朝の時間は貴重であるし、旅行などで一重の素顔を見られてはいつもの苦労も台無しとなる。 “アイプチ”よりも少しだけ勇気が必要で、少しだけお金がかかって、少しだけ高い技術の産物、それがプチ整形なのだ。 本格的な「整形」と“アイプチ”の間に“プチ整形”があると言ってもよい。
プチ整形にかかる金額は本当に“プチ”などという冠がふさわしいくらい安いのだろうか。 博報堂の『生活新聞』(No.343)では、プチ整形にかかる金額表から平均し、だいたい8万円であるとしている。 そして「バッグ、バリ党、プチ整形。女たちが、8万円でクールに美を消費してゆく」と書いている。 金銭感覚や経済的事情は人それぞれ。8万円なんて、バッグだろうが整形だろうが高すぎる、と思う人はたくさんいるだろう。 しかし、8万円くらいするであろうブランドのバッグを持っている人も街でたくさん見つけられる。 仮に、その人数がそのままプチ整形をし得る人数だと考えてみる。 そうすれば、整形手術代の8万円なんて“プチ”と呼べる程の手の届く価格であり、ブームになり得るものなのだと納得がいく。
また、“プチ整形”が“プチ”である理由はもうひとつある。 「整形」をためらうとき、思い通りの顔にならなかったらどうしよう、という不安が頭の中に浮かぶだろう。 しかしプチ整形は、元に戻るのだ。このことが持つ意味は大変大きい。 本格的な「整形」の前に“プチ整形”で試してみることもできるし、 『イミダス』にも記述のある「ヒアルロン酸」などは少し高い美容液と思えば抵抗感はなくなる。 プチ整形が化粧感覚でできるものとして話題となった理由はここにあるようだ。
前述の博報堂の『生活新聞』(No.343)に掲載されたアンケート結果では、 「あなたは、美容整形をすることに対して抵抗がありますか」という問いに、「はい」と答えた女性は92.0%、男性85.0%だった。 それに対し「では、プチ整形をすることに対しては抵抗感がありますか」という問いには女性69.2%、男性68.5%が「はい」と答えている。 本格的な「整形」と“プチ整形”の間には大きな差が生まれている。 しかし、今後“プチ整形”に対しての抵抗感がもっと減っていけば、「整形」へのそれも少しずつ減っていくことになるだろう。

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