「整形」と我々が呼んでいるものは、捻挫をしたときなどに行く整形外科とは別物だ。
こどもの頃はそんなことなど知らず、町じゅうにある
「整形外科」の看板を見ては「こんなにもたくさん“整形”する病院があるなんて…」と驚き、
何かいやな気持ちにもなった。「整形」は、こどもにとっても、歯医者や眼科のような病院とも、
ファンデーションのような化粧品とも全く違っていた。
なぜ、「整形」には暗くていかがわしいといったイメージがついていたのだろうか。
前述の通り、「整形」が街に溢れ始めたころは規制がしっかりできていないがために、
インチキで荒稼ぎする医者が多かったという。また、悪意はなかったとしても、
現代に比べれば技術は劣っていたであろうから、手術に失敗してしまうことも多かったと考えられる。
つまり、「整形」手術には失敗という負のイメージが絶えずついているのだ。
最近でこそドラマでも明るい雰囲気で扱われている「整形」だが、以前は全く違っていた。
過去のドラマについて知るため、2万5千件以上のドラマに関する情報がある
テレビドラマベースというホームページを見た。
ここで番組名もしくはタイトルに「整形」が含まれているドラマを検索した結果を見れば、明らかである。
1973年から2002年にわたり22のドラマがある。2001年の『OLビジュアル系』
(テレビ朝日)と2002年の『整形美人。』(フジテレビ)以前の、20ものドラマがサスペンスで占められている。
サスペンスであるから当然だが、どれを見てもマイナスイメージの言葉ばかり並んでおり、
ドロドロとした雰囲気をかもしだしている。週刊誌の見出しのような、センセーショナルな印象も受ける。
まず、多く目につくのが復讐という言葉。誰かを恨んでおり、整形して顔を変え、
他人のふりをして近づいて復讐をする、という話であろう。
「復讐」とタイトルに明記されていなくとも内容は復讐劇であろうと推測できるものもいくつかあり、
“整形=復讐”というのがサスペンスの公式のようだ。
また、先ほど述べた「失敗」というイメージが反映されているのは
1999年の「悪徳美容整形に泣いた美人OL!」と2000年の「美容整形クリニック、甘い誘惑の秘密院長…」だ。
両方とも比較的最近放映されたものである。最近、ドラマは現実的で共感できるものが好まれるという傾向がある。
サスペンスとはいえ、身近に起り得るのは「犯罪のための整形」よりも「悪徳クリニックに騙される」であろう。
もうひとつ注目したいのが「逃亡」。「復讐」が多いことも考えると、
サスペンスにおいて整形は「自分の顔をなくしたい」という目的で行われることが多いようである。
実際に、殺人事件を起こし逃亡するあいだに整形を繰り返していた、という話はいくつか聞いたことがある。
記憶に新しいのはフジテレビでドラマ化もされたホステス殺人事件の福田和子被告である。
彼女は同僚のホステスを殺害したあとに逃亡したが、時効の21日前に逮捕された。
逃亡中に偽名を名乗ったり整形手術を繰り返したりして、七つの顔を持つといわれている。
実際の事件がサスペンスに反映され、サスペンスによってそのイメージが濃くなっていく、という図式があるようだ。